(1/4) 現代メディアへの経緯とアテンションエコノミー | Medy制作の背景

(1/4) 現代メディアへの経緯とアテンションエコノミー | Medy制作の背景

ー メディアと広告の歴史・推移、インターネットの発達による需供バランスの変化、供給過多が引き起こすアテンションエコノミーと関連弊害について。

2021/9/29

Spectraの浅香( @__asachi__ )です。
本日9/29に、Medyをリリースしました!
ニュースレターと言われている、メールとブログが一体化しマーケティングやロイヤルユーザー化の機能も内包するメディアの形態です。それらを、プラットフォーム型でなくオウンド型として、自身の管理下で独立した運用が可能になっています。(海外ではSubtackやTwitterに買収されたRevueなどが著名ですね)
サービスを公にするタイミングでもあるので、制作背景と今後の姿について記してみたいと思います。
構成を考えて執筆していたら結構なボリュームになりそうだったので、連載として4章に分割して記事にします。数日に分けて公開予定です。

Why Happened "Attention Economy"?

Medyというメディアサービスを説明するにあたって、まずは近代メディアの成り立ちや歴史について触れておきます。

現代型メディアへの経緯

Media(メディア)とは mediumの複数形で「間に取り入って媒介するもの」、いわば媒体という存在です。情報を記録・伝達するために存在します。
洞窟壁画時代から、図・絵画を通じて祈願や記録を行ってきましたが、発信・出版といったメディアにおいて、エポックメイキングなタイミングはいくつかありました。
たとえば、紀元前4千年ごろの文字や11世紀の活字の発生を経て、15世紀に活版印刷がドイツにて発明されています。グーテンベルクの活版印刷技術で、手書きによって伝達されていた書物(例えば聖書など)が再現可能になり、発行量を増やすことが可能になりました。
出版が盛んになると、15世紀頃には世論を形成したり事件や出来事を伝えたりするジャーナリズム的な側面から、新聞が発行されるようになります。このあたりが、「事実や意見を多くの人に届ける」という役割を持つ、現代に繋がるメディアのはじまりになるかと思います。
また、産業革命によって、技術革新・エネルギー変化が起こり、交通や働き方が変わっていきました。この頃には、出版・印刷の技術はさらに発達し、新聞をはじめとして、書籍・出版も大衆化していきます。
その後は、1870年代に電話、1890年代にラジオ(無線通信)、1920年代のテレビと短いスパンでメディアが進化し、人々と情報の接点は増えていき、マスメディアとして、「テレビ」「ラジオ」「新聞」「雑誌」の4媒体での、情報伝達が中心となります。
以降は、1990年半ば*にインターネットの利用者増がはじまり、媒体がもつ影響力や商圏は変化し、一部がインターネットに吸収されつつ現在にいたります。
* どこを切り取るかは個人差がありそうなのですが、研究でなく商業化(≒マスへの広がり)という意味で、NSFNetが民間委託された1995年程度を想定しています。
詳細は大分割愛してしまったのですが、このあたりが参考になります。『図説 本の歴史』,『メディアの歴史

広告によるコンテンツの廉価化

メディアの歴史において、「広告」という存在は切っても切り離せない存在です。
メディアの発展に合わせて、広告というビジネスモデルも成長を遂げています。現代でも、Google, Facebookなど、SNSや検索エンジンのような「面」(=メディア)を持ち、時価総額でもトップクラスを誇る大企業の収益のメインは「広告」によって成り立っています。
歴史を振り返ってみます。
新聞の刊行が15世紀頃に起こって、17世紀・18世紀頃には週刊化して発行されるようになっています。この頃、とりわけ1770-1780年代は市民革命が起こっていたタイミングで、めまぐるしく世が動いていました。
70年代中盤からのフランス革命においては、絶対君主制における身分制・領主制といった封建的な体制が一掃され共和制に移行し、王・貴族や聖職者権力の独占が終焉を迎えたタイミングを迎えたと言われます。
動きが早く、大きな影響力があったこの革命では政党側は主義主張を伝達、市民は状況を把握、メディアである新聞はそれらを正確かつ広範に届ける必要がありました。
また、1789年には「人権宣言」が発布され、「思想および意見の自由な伝達」が保証され事前検閲なく発行できるようになり、1836年にエミール・ジラルダンによって「La Presse」が刊行されます。
このエミール・ジラルダンによって購読モデル(≒サブスク)で回っていた新聞に広告モデルが取り入れられ、破格的に値段を下げ多くの人に届けていくことに成功したと言われています。
購読料や買い切りの際に、原価を購入者のみが負担していたものを、その購入者にリーチをしたい人からの支払いによって、廉価化したのです。
「知の流通を安価にすること」が、本質的な広告の役割でした。

現代における情報伝達と広告

広告は「安価な知の流通」を支える手段になりましたが、ビジネスとしては当然に需要と供給のバランスによって成り立ちます
主に新聞から始まった枠売モデルですが、その後の流れにおいてもマスメディアが出面を抑えており、供給量に制限がある状態でした。一方で多くの消費者にリーチができたので(販促)影響力が強く、希少性をもっていました。
ところが、インターネットの発達で需給バランスが代わっていきます
インターネットによって製作・流通コストを抑えて発信ができるようになりました。ブログやHPもそうですが、SNSの台頭やデバイス・通信環境の進化も相まって、個人がメディアをもつこと・発信をすることが極めて自然に行われるようになってきています。
それらを「面」という観点から見ると、供給が莫大な数になり、今なお成長余地があるということになります。つまりは希少性が薄くなってきており、期待できる成果にもばらつきが出てしまいます。
少し雑な整理ですが、上記の課題感によって成果への支払いやアドネットワーク,RTBのようなマッチング技術の進歩に繋がり、クリック・コンバージョンなど、出稿側が成果の(先行)指標として期待する数値に連動したコスト発生になったと考えられます。

情報接点の圧倒的増加とインスタント化するコンテンツ

広告を出す場所という観点では、2000年代後半頃から、Twitter,Facebook,YouTube,Instagram,TikTokのような巨大SNSが台頭しはじめました。
YouTubeのスパチャやメンバーシップをはじめとして、最近ではTwitter,Facebookが直課金モデルを進めているものの、これらのサービスは広告をメインの収益源とするサービスです。
SNSをはじめとするメディア(=広告面を提供する側)にとって、広告収益の最大化には、消費者に多くの滞在時間を割いてもらい広告との接点数を増やすことが重要になります。そのために、表示・配信ロジック(ターゲティングや嗜好性など)を強化しています。
とはいえ、生物として睡眠や食事、社会的存在として学校・仕事・家庭など様々なエッセンシャルがある人間が実際に使える時間には限界があります。これが「可処分時間」という自由に使える時間を意味する概念です。
インターネット・通信環境の成長、さらにスマホの登場で「可処分時間」の考え方も代わってきました。至るところに情報との接点が持てるようになったためです。
今までは通信ができなかった・しにくかった環境(ex.通勤通学中の電車, 家事)などでも、今ではごく自然にスマホでネットに接続できるようになっています。2016年と少しデータが古いですが、ガラケー利用者に比べてスマホ利用者のネット接続時間は圧倒的に長く、スマホ単体のネット接続時間も増加の傾向があります。
現在では、実質、起きてから寝るまでのあらゆる時点において、情報接点をもつことが可能となっています。いわば、いつでも・どこからでも手元に情報を届けたり見てもらえたりするということです。
私たちは少しでも時間があればスマホを見るようになり、特にSNS上のコンテンツなどは、そのほんの少しの時間の間にいかに自分のコンテンツを差し込むかを競い、コンテンツをインスタント化・短尺化させている傾向があります。
現代にといて、消費者は、まとまった時間にすらインスタントになったコンテンツを大量に消費しています。(もちろん長尺化している部分もありますし、TikTokのような短尺を連続してみることで滞在時間が伸びているという傾向もあります)

アテンションエコノミーとは

コンテンツ供給量が増え続けている近年では、その「接点」あるいは「可処分時間」を抑える戦いが激化しています。
あらゆるスキマ時間にコンテンツを差し込めるようになり、広告との接点がいたるところに存在します。ローカル・ニッチな場所はもちろんのこと、出稿主にとって莫大な顧客候補がいるSNSや検索エンジンにおいて、どれだけ安くリーチしてコンバージョンしてもらうかが非常に重要になってきています。
そういった背景から、可処分時間を取るための「注意」によって、なされる経済圏がアテンションエコノミーと呼ばれます。
可処分時間を一瞬でも抑え、注意→成果につながる行動(クリック,コンバージョンなど)が起こることで、出稿主は消費につながる成果を、供給側は売上を得ることができるようになります。
そういった熾烈な争いの中では、如何にして選択されるかが最重要課題となります。
とりわけ圧倒的なユーザー数を抱えるSNSや検索エンジンでは、広告でないコンテンツを含めて他コンテンツと並列・フラットに並ぶことが通例です。
このような状況下で、扇情的・扇動的なクリエイティブや、タイトル・サムネイルと内容がそぐわない釣りなどが、否が応でもとにかくアテンションをとる手段として多く発生しています。レギュレーションや監視を通じて一定の対策はなされるものの、抜け道はいくらでも存在してしまう上、広告出稿者や発信者からすると前述の手法は(少なからず短期的には)効果的であることには変わりはないという構図もあり、長きに渡って問題となっている現象です。
広告というビジネスモデルの成否が消費者の可処分時間をいかに抑えるかにかかっているという構造自体は古くからありましたが、スマホの普及・インターネット環境の改善によって細切れの可処分時間を取り合うようになったことで顕著になり問題化したという理解です。

アテンションエコノミーの課題感

前の2セクションにて、情報接点の圧倒的な増加→少しの時間にコンテンツを差し込みたい→コンテンツの短尺化→コンテンツの大量消費,創作性の制限→大量の投稿の中から選んでもらうには→過激化(→継続 = 過激化の加速)といった流れを説明しました。
消費者の可処分時間をアテンション(=注意、刺激)で抑えていくという構造の周辺には、下記のような問題も存在しています。
①アテンションという人間の思考活動の弱みとアテンションエコノミーの終わらない加速
アテンションエコノミーという概念の元になった考えとして「情報過多社会におけるアテンション獲得の重要性」について説いたハーバート・サイモンの言葉によると、
注意とは、人間の思考活動の弱みであり、私たちが刺激のある環境においてなにを取り込み、なにができるのかを制限するもの
とあります。
1970年前後の言葉なのですが、非常に的を射ている言葉だと感じます。
「思考活動の弱み」とあるように、日常的に情報との接点を持つ中で、本能や条件反射で反応しやすいものに意識や時間が取られてしまうというのは自然に起こりうることで、消費者の立場からすると、どの情報を取り入れるかを常に主体的に選択するのは非常に難しいことです。
一方で、前述の通りビジネスは需給の一致によって成り立つため、消費者がそのようにアテンションに無条件に反応している限り、発信者や広告出稿主などを含む生産者がアテンションの取り方を過激化させていく可能性は無くなりません。
アテンションエコノミー加速のループを緩めるには、消費者が自身の意思決定において、自分なりの軸や意識をもつように変化していくことも、非常に重要になってくる要素だと思っています。
②短尺化・インスタント化による長尺・長文コンテンツの相対的価値の低下
短時間で消化できるようなコンテンツ自体が悪いとは思いません。短尺・インスタントなコンテンツの中には良質と思えるものも多くありますし、スキマ時間で学習・リフレッシュ出来ることは素敵なことだと思います。
ですが、本来は断片的でなかった時間を含めて、多くの時間が短尺・インスタントなコンテンツに割かれている、強く言うのであれば支配されていることは問題であると考えています。
そういった状況下では結果として、より目立つためにアテンションの獲得競走が激化してしまうとともに、短尺・インスタントなコンテンツにクリエーターが最適化され、創造性が制限されることにもつながっていってしまいます。
長尺や長文で良質なコンテンツの流通や、それらを必要としている消費者に確かに届けるという点についても解決策が必要なのではないかと考えています。
このあたりは、#4「情報の価値とMedyが支えるもの」にて、Medyがサポートしたい・流通させていきたいコンテンツとして触れていければと思います。

#1現代メディアへの経緯とアテンションエコノミーのまとめ

長くなってしまったのでまとめます。
元来、広告は知を安価に流通させるために利用された手法でしたが、4マス時代を経てインターネットによって接点が細分化され、SNS・スマホの台頭により圧倒的な情報接点数となり、どう(細切れの)可処分時間を抑えるかに焦点があたるようになりました。
それによって、接点において如何にして注意をとり、情報に引き込むかを競い合うようになり、過激・扇情的なクリエイティブや訴求が増加するようになってしまったことが、期待して取捨選択をする消費者にとっても、良質な情報を発信する発信者にとっても問題になっているという話でした。
では果たして、僕たちはこの状況から脱却あるいは、並行して付き合っていけるのでしょうか。
この点については、次々回の#3にて「多様性・不確実性、情報過多の時代のコンテンツ」というテーマで掘り下げていければと考えています。
また、コンテンツが大量に生産されるようになったこと自体は問題でなく、むしろ良いことであると考えています。コンテンツの供給やコンテンツを通じた影響力・ビジネスについては、#2で「クリエーターエコノミーのはじまり、今後の動向」と呼ばれるここ最近の新たな潮流にフォーカスする中で考えていければと思っています。

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