プロダクト外でも課題解決を。4年間のPdMを経て、BizDevへの挑戦と苦悩。| 金愛理沙 (メルロジ)

プロダクト外でも課題解決を。4年間のPdMを経て、BizDevへの挑戦と苦悩。| 金愛理沙 (メルロジ)

[#2]メルカリの物流・配送最適化に挑むために設立されたメルロジでBizDevを務める金さんに、PdMからBizDevのキャリアやメルロジの現在・今後について伺いました。

2021/11/2

DEEP DIVEは、Medyを開発する浅香がプロダクト開発に関わる方に「デジタル化」「ユーザーインタビュー・検証」「事業ドメイン特有のハードル」等の特定テーマを軸に、自社・ご自身の領域や取り組みについて掘り下げていく企画です。
今回は、先日新たに設立されたメルカリの新子会社メルロジでBizDevを務める金さんにお話を伺いました。
新卒で入社したメルカリでPdMの経験を4年積み、現在はBizDevを務める金さんに、キャリアの推移、なぜキャリアチェンジをしたのか、PdM→BizDevというキャリアトレンド等、お話いただきました。
※本記事ではProduct ManagerをPdM, Business DevelopmentをBizDevと表記しております。
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Profile

金愛理沙 (@kimchanbbq)
株式会社メルロジ Business Development
メルカリに新卒入社。プロダクトマネージャーとしてメルカリ姉妹アプリやメルカリ越境プロジェクトの立ち上げを経験。2021年7月Bizdevへ転向し、現職に至る。



新たに設立されたメルロジ

メルロジは2021年10月末に、メルカリの子会社として新たに設立されました。
2013年7月に提供を開始したメルカリは、2021年9月にはMAUが2,000万人を突破、累計出品数が20億品の規模になっています。
一方で、取引総額や利用者増大につれて、連携しているパートナー様を含め、配送網への負担が大きくなっていることも事実です。
日本全体の年間宅配便取扱個数50億個※3のうち5%から10%※4を「メルカリ」の荷物が占めるほか、コンビニ発送のうち約80%※5が「メルカリ」の出品物の発送になる
そういった背景から、自社保有のお客様とのタッチポイントを基盤に、データやテクノロジーを使い新たな集荷物流網を築いていくのがメルロジです。
配送網を自社に置き換えたい・コストを下げたいといったような単純な話でなく、「多様な価値をつなぎ、やさしい生活を創る」というミッションを掲げ、ステークホルダー(利用者・パートナー・配送者)や環境にやさしい物流を目指し設立しました。

(メルロジが担う価値のイメージ図)

通常のECのような、事業者やメーカーが注文者に商品を届ける方式と違い、メルカリはC2Cという性質上、お客様(出品者)がお客様(購入者)に商品を届ける形となります。
そのため、配送に関する負担や手間もお客様(出品者)にかかってしまうため、配送に関連する体験に関して、付加価値をしっかり作っていくことを重視していることが特徴です。
自分自身はメルカリポスト(セルフで発送できる無人投函ボックス)の認知度向上のためのPMM(*)的な働きと、実証実験中の梱包レス発送の立ち上げを担当しています。
(*) PMM:ProductMarketingManagerのこと。 参考:メルカリにおけるPMMの事例

新卒入社直前で外資系企業のマーケターからメルカリPdMに

就活では外資系化粧品メーカーのマーケターとして内定をもらい、キャリアを開始するつもりでした。
一方で、大企業に勤める兄と姉から仕事の話を聞いていたこともあり、違った性質をもつスタートアップ・ベンチャーにも興味がありました。
そういった背景から、留学から帰ってきて卒業から新卒入社までの半年間で、実際にスタートアップで働こうと思い立ち、ブランド品オークションや越境ECを手掛けていたザワットにインターンとして入社をしました。
働いていたザワットが2017年2月にメルカリに買収されたことをきっかけに実際にメルカリに働くことになるのですが、バリュー・カルチャーの気持ち良さや一緒に働くメンバーに魅力を感じ、2017年3月という内定企業への入社直前にメルカリに新卒入社することを決めました。
当時はプロダクトマネージャーという職種について分からないことも多かったのですが、自分自身の企画やアイデアを世の中に出していくことや、将来的な事業立ち上げに興味があったので、良い意思決定だったと感じています。
当時のことは、こちらの記事でも触れていただいています。

ファッションカテゴリの担当と越境ECへの挑戦

入社してから、基本的には0→1で立ち上げるプロジェクトとファッションカテゴリに携わることが多かったと思います。
新卒である1年目(2017年)はグループ会社ソウゾウで、メルカリ メゾンズという査定機能付きのブランド品専用フリマアプリの立ち上げに従事。
2年目(2018年)はメルカリで、ファッションカテゴリのGMV(*)をグロースさせるチームでPMMや、アプリにおける購入・出品体験の改善でサービスグロースを担うPdMの役割を担当しました。
(*) GMV = Gross Merchandise Value, 流通取引総高のこと。
この頃から、一通り機能を0からリリースしていくことにも慣れてきたので、新たな挑戦をしたいと考えるようになりました。
上記の背景から、3年目(2019年)は越境ECを立ち上げるプロジェクトに参画しています。
もちろんPdMのような開発マネジメントもありましたが、従来のメルカリと違う性質の取引が生まれるため、リーガル・コンプライアンスの調整、Buyeeさんというパートナーとの調整など、BizDevやPjM(=プロジェクトマネージャー)的な役割も多く担当しました。
(2019年11月に開始したメルカリの越境販売機能)
4年目(2020年)には越境ECのプロジェクトが一旦落ち着いたため、再度ファッションカテゴリのGMVをグロースさせる役割になりました。開発・パートナーとの提携等、様々な切り口から取り組むことが出来たのかなと思っています。
コーディネートから商品を探せる機能などをアプリ内に入れるなど、新たな取り組みを模索していきました。
こちらのプロジェクトでは、途中からマネージャーも兼任することになったのですが、成功だけでなく多くの挫折を味わい、今回のBizDevへのキャリアチェンジを考えたきっかけにもなっています。

5年目でのBizDevへのキャリアチェンジ

4年目にマネージャーになった際に、マネージャーとして求められる期待値とミッションであるGMVをグロースさせる期待値の両立に、自分がうまく対応できないのではないかという思いがありました。
振り返ってみると、お世話になったマネージャーや憧れていたマネージャーは、価値のある仕事を自ら生み出せる方だったように感じます。
一方で、自分は全く役割が担えなかったと思っています。
担当していたファッションカテゴリは、メルカリの中でも3~4割を占める影響力が大きいカテゴリです。
そういった巨大なカテゴリにも関わらず、ファッションアイテムを買う体験が良くないことは社内でも頻繁に声があがっていました。
たとえば
  • お店での購入はテイストごとに分かれているが、メルカリは雑多にリスティングされてしまっている
  • サイズやフィッティングが想像できない
  • SKU(*)の概念がないため、同一商品から色違いやサイズ違いを探せない
など、多数の課題を抱えています。
(*)SKU = Stock Keeping Unit, 小売に置いて在庫管理をする際に、最小の品目数として計算する単位のこと。同一商品であっても、色・サイズ・材質・値段等が違えば、別のSKUとなる。
担当していた頃は、連日連夜どうしたら良い体験を提供し、結果としてGMVを伸ばすことができるかを考えていました。結果として、幾つかの機能リリースによりGMVを微増できたものの、最後まで抜本的にお客様体験が生まれ変わる施策を世の中に出すことはできませんでした。
当時は焦っていたこともあり気づくことができなかったのですが、振り返ってみたりフィードバックをもらったりする中で、プロダクトのみで解決できるソリューションを探していたということが大きな要因だったのではないかと思い至るようになりました。
メルカリ自体、既に7年間をかけて開発・改善を繰り返している状態でしたし、インターネットでの購入体験を考えると、返品や物流などサービス外にも多くの体験が染み出しています。
その中で自分は、今あるアセット × 社内リソースでできそうなことに、視点が閉じてしまっていたのかなと思います。
こういった挫折や反省から
  • ソリューションの幅を社外・機能以外まで広げて社会実装できる
  • 自分で価値ある仕事を生み出す
ことが重要だと思い、BizDevといった職種にキャリアを広げることを考えるようになりました。

BizDevとしての3ヶ月 - 発見や苦悩

初めてのことだったので、はじめは不安も多くありました。
メルカリ以外の会社の事例は知らなかったですし、社内で機能開発を中心に取り組んでいたため、BizDevとしてどう振る舞うべきなのかを迷っていました。
また、社内では基本的には同じ目標・同じミッションを持って並走してくれることが基本でしたが、社外のパートナーの場合は利害をアラインしていくところから始まります。
そういったギャップに最初は戸惑っていました。
メルカリでのBizDevは、
  • パートナー企業へのWin-Winな提案
  • 事業を共同で取り組むことに合意形成する
といった基本項目はもちろんのこと、実際に実行して事業化するところまでオーナーシップをもって担当します。
たとえば、私が担当している梱包レス発送では、パートナー企業への提案と合意形成だけでなく、
  • 取り組みにあたってのルール設計
  • 販促企画のディレクション
  • お客様に向けた告知
も、PdMでなくBizDevが担います。
上記3つの実行のプロセスはPdMで学んだことが活用できる形だったので、上手くフィットすることができました。
一方で、パートナーに向けてミッションや利害をアラインする提案は、完全に初めての体験でした。
先方の社内言語や伝わりやすい形での言語化や、組織・担当ごとのミッション把握とWin-Winなスキームの模索などは、過去の提案資料や取り組み事例からインプットしたり、既に経験のあるメンバーから学んだりしています。
根本として関わるメンバーに向けた利害調整は一緒だと思いますが、コミュニケーションの相手が変わることでの難しさは非常に感じているところです。

BizDevとPdMの共通点と違い

大前提、お客様の課題を解決することは一緒だと思っています。
メルカリのケースで言うと、
  • 社内アセットをメインで使って課題解決する:PdM
  • 社外アセットやパートナーとの取り組みでも課題解決する:BizDev
といった、手段の違いくらいだと感じています。
プロダクトに関わる施策や機能スタートであればPdMが担い、開発だけが唯一手段でないものや外部のパートナーとの取り組みはBizDevが担うようなイメージです。
違いについては、多くのことがあるとは思いますが、実際に感じている差分で言うと、人間関係構築スキルがあります。
たとえば、PdMの業務でいうと、目標やミッションが合致していれば、ジュニアの際には人間関係構築スキルのようなソフトスキルがなくても、一定のプロジェクト進行は可能です。
比べて、キャリアが進んだシニアなPdMは、ミッションを達成するために、エンジニアやデザイナーといった一緒に事業を作るメンバーと利害関係を調整したり、信頼関係を築いたりするコミュニケーションも1要素として満たすことを重視するかと思います。
そういった、フェーズによって観点が違ってくる中で、BizDevでは一緒に事業を起こすパートナーに初期から信頼してもらう動き・振る舞いが必要であり、目標を掲げて理想やミッションに向かって走る姿勢を通じて、ステークホルダーの目線や向きを合わせる重要性を改めて感じました。
もちろん、社内でも意識したほうが良いですし、出来るに越したことはありません。
ですが、社外パートナーとの関係性において、暗黙の了解や同じ目標やミッションを追う者同士の気遣いはない前提なので、そこのコミュニケーションから意識することがより重要な点であると考えています。

PdM→BizDevといったキャリアトレンド

日本でPdMが注目され始めたのは、長く見てもここ10年弱程度で、歴史が浅い職種なのかなと思っています。
一方で、最近では徐々にPdMになる方も増えてきています。そういった中で、差別化や比較優位として、プラスアルファのスキルも更に求められるようになるのではないでしょうか。
たとえば、別職種としてエンジニアにおいても、コーディングのスキルのみならず、上流のビジネス理解から求められているように感じています。
エンジニアがPdMのような役割を担えるようになっていくと、PdMは何をするべきかが問われるかと思いますが、その際に社内調整ができるだけではバリューとして不十分です。
そういった際に、BizDevに求められていたことが、PdMに求められるようになっていくのではないでしょうか。
ビジネス理解・利害調整・対外的なパートナーとも事業を0から作っていく姿勢は必要要件になってくると思います。
キャリアチェンジというよりは、必然的に求められるようになるといったニュアンスが近いのかもしれません。
たとえばメルカリにおいても、今まではアプリ・WEBなどプロダクト内UXを重視してグロースし、現在の規模になることができました。一方で、まだ使っていただけていない方にもご利用いただくことで、新たなビジネスチャンスを得ることが可能です。
パートナー店舗で実施するメルカリポストや梱包レス発送などの取り組みは、メルカリを利用しているお客様の店舗への来訪機会も増やすことができます。
パートナーが保有しているアセットとメルカリのアセットを組み合わせることで、双方にとってメリットがある形も模索できるのかなと思っています。
そういった事業の継続的成長のために、アプリ・WEBといったプロダクトに閉じず、ミッションや課題を共通する外部のパートナーとの連携も非常に重要になるのではないでしょうか。

メルロジの今後と自身のキャリア

メルロジでは、足元では「メルカリポスト」の全国拡大から開始していますが、集荷効率の最大化や新たな価値を付け足すような体験設計を目指しています。
10月にできたばかりの会社で、パートナー企業との事業開発を中心に、物流網の構築やオフライン進出など、お客様に向けて1つずつ事業を作っていくフェーズです。
今後はソウゾウのメルカリShops出店者向け作業代行や、他社EC様・他ネットショップ出店者様との連携の強化、管理用ソフトウェア開発まで予定しています。
ミッションとして掲げる「多様な価値をつなぎ、やさしい生活を創る」に向かって、配送・物流に関わる皆様にとって、「送る」「運ぶ」「受取る」のすべてにやさしい物流・サービスの提供を目指すつもりです。
自分自身は、お客様やステークホルダーの利益にきちんと向き合い、自分の事業と胸を張って言えるような実績が作れるように、成果を作っていきたいと思っています。
社内では、私のように物流未経験のメンバーも実際にいます。
未経験であっても強いWillを持って成し遂げたいことを持つメンバーを歓迎しています。
現役PdMの方・Bizdevの方もぜひ一緒に事業を作っていく仲間になってもらいたいと思っています。
11/9(火)には、発足後はじめて対外的に会社や事業についてお伝えするイベントも開催するので興味がある方は、ぜひエントリしていただけると嬉しいです。

編集後記

今回は、先日10/28に設立されたメルロジにてBizDevを務める金さんにお話を伺いました。
メルロジといえば、コンビニ配送の80%がメルカリの配送ってすごいですね。規模の大きさにびっくり。アプリ外でのさらなるお客様体験の追求や、環境や配送員にも「やさしい」物流・配送を目指していくみたいなので、メルロジの今後も楽しみです。
(服を売ることが多いのですが、だいたいネコポスを超えるサイズで絶妙に梱包に困ってるので、梱包レスとか持ち込みとかは個人的にはすごい嬉しい体験w)
さて、今回インタビューさせていただいた金さんは、4年強プロダクトマネージャーを務めた後、今夏からBizDevにキャリアチェンジしたとのことですが、最近はそのキャリアパスが話題になっているように感じます。
夏には、ラクスルさん × 10Xさんのイベント「PdM→BizDevへのキャリアチェンジの可能性」が、たしか500名以上ものエントリを集めていた記憶です。会社自体の注目度もあるとは思いますが、すごい…!
自分の目に見えている範囲でも、別企画の10Qs to ProductManagers での「求められるもの」という設問で、今後のキャリアとしての広がりにBizDev等にもフィットし得るというのが #2 Dr.'s Prime髙橋さんの回で触れられていました。
プロダクトマネージャーが担うべき職務は、ビジネス構造・ビジネスインパクトを司って成果を生み出すことだと思うので、今回の文中にもありましたが、手段を内外どちらに持つかといった差くらいと考えるのもスムーズなのかなと感じました。
また、「総合格闘技だ」とも言われることもありますが、最近ではピュアなインターネット(≒人々の消費行動をソフトウェアで殆ど代替する)として切り取れる部分も少なくなってきていると言われています。もちろん細分化して考えることで可能性はあるかもしれませんが、多様・高度な業務や、まだデジタルがあまり入り込んでいないような領域がソフトウェアを求めているのではないでしょうか。
そういった中で、たとえばデジタル化が進んでいないレガシーな産業に向けて、業務の代替やビジネスモデル・サプライチェーン構築のアップデートをする際には、マーケット理解やテクノロジーのアラインを考える必要があります。
BizDevのように、マーケットやパートナーの理想像・ミッション・課題を噛み砕いて、Win-Winな形で自社・プロダクトとのコラボレーションを作っていくことも、次なるスタンダードになっていきそうです。また、その際にプロダクトの知識をもって望めるのも好ましいように感じます。そういったように、強みをかけ合わせていったり、職種をまたいだりするような動きから、PdM・BizDevの関係性に注目が集まっているのかなと感じました。
プロダクトマネージャー自体も職務として定着してからの歴史が浅いこともあり、以降のキャリア事例はあまりない気もするので、今回は実体験として貴重な話をお聞きさせていただきました。
メルロジにご興味の方は前述のリンクからの応募、ならびに金さんに連絡してみてください!

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