"数値"と"ストーリー"は常にセットで | 10Qs to 髙橋京輔(Dr.'s Prime)

"数値"と"ストーリー"は常にセットで | 10Qs to 髙橋京輔(Dr.'s Prime)

[#2]CyberAgent・メルカリ等でプロダクトマネージャーを務めた髙橋京輔さんに10個の質問に回答いただきました。

2021/10/26

10 Questions to Product Manangers は、Medyを運営するSpectra浅香がプロダクトマネージャーの方に「キャリア」「初期の学習方法」等、10個の共通質問をインタビューし、プロダクトマネージャーに対する理解を深める連載企画です。(参考:#0 企画概要 , #1 SparkJoy田辺めぐみさん )
今回は、CyberAgent・メルカリでのプロダクトマネージャーを経て、ドクターズプライムの取締役を務める髙橋京輔さんへのインタビューとなります。
運営ブログ About Product でプロダクトに関連する記事を出す度に多くの反響を生み出しており、そういった思考の言語化や、メガベンチャーでのキャリアを通じて得たインサイト・持論について等、お話いただきました。

Profile

髙橋 京輔 (@kyosu_ke)
株式会社サイバーエージェントの米国支社、CyberAgent America, Incの創業に参画し、サンフランシスコにて北米向けスマートフォンゲーム事業の立ち上げを経験。国内大型ゲームタイトルのプロジェクトマネジャー、事業責任者を経て、2016年より株式会社メルカリにて米国向け、日本向けのアプリのプロダクトマネージャーとして製品開発に従事。メルカリ在籍中の2017年に中学高校時代の同級生であった医師と「救急車のたらい回しをなくす」をめざす医療スタートアップ、ドクターズプライムを創業。

10Questions

Q1:Role (担当・役割)

取締役を務めるドクターズプライムでは、プロダクトとコーポレートを管掌しています。
ドクターズプライム社は断らない医師募集サービス「Dr.ʼs Prime」を運営しており、プロダクトに関連するチームは、ソフトウェアエンジニアが5名・プロダクトマネージャー兼データアナリストが1名・プロダクトOpsに4名ほどの組織規模です。


直近は仕様検討のようなプロダクトマネージャー業は少しずつ減り、プロダクトオーナーのような仕事が多くなってきています。
具体的には
  • 大きなロードマップの策定
  • 必要な組織の構築、採用
  • 成果物のレビュー
といったようなことが、メインの職務です。

Q2:Background (キャリア・経緯)

キャリアのスタートは、CyberAgentからです。CyberAgent Americaの創業タイミングに、内定者インターン時代から参画をしました。
それ以降約11年間、いわゆるインターネットサービスの企画職をずっと担当しています。
ですが、実はインターネット業界に行きたかったという強い希望はなく、業界を絞って就活をしていたわけでもありませんでした。
重視していたのは、「社会性」「意味性」といったことです。"売上が伸びるか"が最重要指標ではなく、"どういう意味があるのか"を重視してきたと思っています。
その考えのルーツは就活をしていた大学3~4年頃です。たとえば、日本の人口やマーケットサイズの減少について課題感を覚え、国内に閉じず外貨を獲得していく動きには、社会的な意義があるのではと考えるようになりました。
そういう意味では商社とかに興味がありましたし、実はNHKでドキュメンタリーを作りたかったという過去もあります。最終的には、日本発で世界で戦えるような事業・サービスづくりを若手の内から主導できるといった点から、CyberAgentに入社を決めました。
未経験からのスタートだったので、とにかく何でもやるというスタンスのもと諸先輩方に教えてもらいながら、US事業の立ち上げに約2年ほど従事しました。
その後、日本に戻り、シニアなメンバーと共にゲームタイトルを作る中で、事業成長のために「お客様のためになるのか」を追求していくプロセスや合意形成について試行錯誤し、ガールフレンド(仮)の責任者等のキャリアを確立していきました。
参考:過去のインタビュー記事

Q3:Definition (定義)

非常に難しいですが、シンプルに言うとプロダクトの成功を請け負う職務だと考えています。
あくまで"成功が目的"であって、成功のために必要なことは範囲を絞らずにやるといったイメージでしょうか。
そのためには、人事権限を通じてアサインメントや採用に広がることもあると思いますし、ステークホルダーとの利害調整や組織の円滑なコミュニケーションの促進といったこともやるのかなと思います。
また、重要だと考えていることは、コミットするイシューを間違えないことです。ここが間違っていたら元も子もなく、どれだけ深掘っても成功はないと思います。
その前提で、Business・Technology・Designといったプロダクト開発のトライアングルの交点をきちんと抑え、成功に向かっていくことが重要だと考えています。

特になりたての方や初学者の方にとっては、まずビジネスインパクトをきちんと考えられるようになるのを意識することが重要だと思っています。
前述した3要素において、プロダクトマネージャーが主に担うのはBusinessの部分です。
正しいイシュー選定やビジネスケイパビリティへのコミットが大前提となるので、事業の利益構造・KPI選定・ビジネスインパクトの出し方を考え、いつ・どうやって達成するのかを決めることで、価値を出すべきだと思います。
他の2要素への拡張については、あくまでBusinessの職務をきちんと担った上で範囲を広げてバリューアップしていくといった話で、全てが中途半端な状態には意味がなく、関係者の信頼も勝ち取れないと考えています。

Q4:Learning (初期の学習)

イシューからはじめよ』は新卒のときに読んで、影響を受けている1冊です。
前のセクションでも触れましたが、事業において正しいイシューを解かないと意味がありません。この本では、イシュー自体を発見することや、どのパラメータをいじるとインパクトが出るのかといったような基本構造を理解することに役立ちました。
参考:過去に参考になった書籍について回答した記事

また、ロールモデルはあまり意識したことはなかったのですが、CyberAgent時代の先輩で尊敬している方がいました。
「ガールフレンド(仮)」のときに一緒に仕事をしていた方で、直近ではAbemaTVで「オオカミちゃんには騙されない」のプロデューサーとしてヒットを生んでいます。
とにかく成功への執着がすごく、調和やコミュニケーションといった全体のまとまりでなく、どうしたら数値が伸びるのか・ユーザーが喜んでくれるのかに、ずっと向き合って考えているような方でした。
常に目線が高く「これは無茶では?」と思うシーンも多々ありましたが、それでも成功を請負い確実に事業を伸ばしていたので、メンバーがついてきていました。改めて振り返ってみると、正しいプロダクトマネージャーの姿だと感じ、そういった方と一緒に働いた機会は非常に貴重だったと思います。

Q5:Credo (信条・ルール)

「両立させること」を2つの意味で大事にしています。
1つはトレードオフにしないということ。
Aの数値を伸ばすとBの数値はダメになってしまうといったケースにおいて、普通はどちらか片方を諦めがちですが、考え抜いたり見方を変えたりすることで、両方にヒットさせる手段が見つかるはずです。
スタートアップ・ベンチャーは、チームの資源が常に不足している状況だと思うので、この意識は非常に大事にしています。
もう1つは、数値とストーリーを両立することです。
定量の裏には、定性的な理由付けがあると考えています。
相関があるように見えても、それが因果関係ではないということは多くあります。たとえば「日本語を話す人は長生きする」といったことは、日本人の平均寿命が長いという意味では正解なのですが、実際には気候・食生活・栄養状態・運動頻度…等、といった要素が直接的な原因であるため、日本語を習得しても長生きはできません。
「日本語」と「長生き」の相関で考えると当たり前に理解できることであっても、プロダクトのデータ解釈の場では、ストーリーを考えずにデータだけを見ていると、こういった相関と因果の取り違えが簡単に起きてしまいます。
数値・ファクトは非常に大事ですが、それだけでなく裏にあるストーリーや要素も見逃さずに考え、セットで証明することを意識しています。

Q6:Joy (やりがい・喜び)

これも数値とストーリーが両立できたときですね。
  • 数値が伸びたという定量評価
  • お客様からの「良かった」という定性評価
の両方を得ることは、前述したプロダクトの成功・成長のために必須だと思っています。
なので、この瞬間は職務を果たせたと、やりがい・達成感を感じるタイミングです。

Q7:Requirement (求められるもの)

能力やマインドについては、Q3:Definition で回答したことと同じになるかと思います。
今後については、大きく2つの動向がありそうと考えています。
1:他職種への広がり
プロダクトマネージャーのスキルや経験は汎用性が高く、どの領域にも染み出していきやすいと思っています。ユーザーがいて体験を良くする・便利にすること、それらをオペレーション含めてシステムで設計することは、職種問わず共通・基礎的な部分です。
数値や達成に向けたハンドリングも、効率化・最適化もできるような職種なので、HRやBizDev等の各方面からも引き合いはあるのではないでしょうか。
そういった意味で、キャリアの幅やチャンスは広がっていくと思います。
2:職務の細分化
最近では、PMM,TPM* 等が派生してきていますが、職務の細分化は間違いなく起こっていくと思います。(参考:PMM , TPM)
DNX Venturesの湊さんのツイートでも触れられていましたが、役割や事業性質によって求められる内容も変わってくるのではないでしょうか。
このように、
  • 体験のコアをアップデートしていく
  • グロースさせること
  • 決済,認証,分析等の横軸基盤を作ること
  • 新しいプロダクトを作ること
では、考え方・何が変数になるか・活きてくる強みは大いに違うと思うので、今後はより細分化していくと考えています。

Q8:Wow! (最近のワオ)

そもそも、イノベーター理論・キャズムでいうと、自分はレイトマジョリティに該当すると思っています。
あまり早いタイミングや頻繁に新しいものに手を出すタイプではありません。(参考:イノベーター理論・キャズム)

(※消費者のタイプを分類し、イノベーターとアーリアダプターを合算した16%までが初期市場で、それ以上のシェアに拡大する際にキャズム(=深い溝)があるという考え方。)
また、サービス提供者として、常に普通・マジョリティの感覚を持っていたいとも思っています。
当然の基準は、所属するコミュニティの基準になる傾向があると思いますが、IT業界やベンチャー・スタートアップのような環境での基準は、世間で見るとマジョリティの感覚ではありません。
たとえば、そのような業界で働いているひとは、直感的や一般的ではないようなUI/UXにおいても脳内で補完して使ってしまえたり、機能や体験を拡張して考えることができたりします。
そういった、自分たちは分かる・理解できるといった基準やライフスタイルが、一般的な基準と乖離していることは多々あります。特にメルカリ在籍時にはユーザーインタビュー等を通じて感じる機会がありました。
サービスを使ってくださる方との認識・リテラシーのギャップを生まないことも意識し、必要以上に手を出さず、気が向いたり必要だったりする適切なタイミングで、使いはじめるようにしています。

Q9:Creator Economy (クリエーターエコノミーについて)

直接的ではないですが、周辺領域として考えていること・感じることはあります。
たとえばプラットフォームがコンテンツを自分たち(プラットフォーム)のものにしてしまうような動きには、以前から懐疑的です。
というのも、個が台頭する時代において、コンテンツを創作するのもサービスへのトラフィックを集めるのも、実際は発信者・クリエーターが担っているという構図が多いのではないかと思っています。
そういった(コンテンツをプラットフォームのものにするような)動きがあると、個人的には該当サービスでの発信に前向きになれないことがあります。

Q10:Creation/Writing (コンテンツ力,構造化)

ー 運営するブログAbout Productでも、投稿ごとに多くの反響を集めている 髙橋さん。頭の中を言語化することや構造的に考えて整理することに対して、意識していることを最後に伺いました。
最近のブログ記事でも書いたのですが、情報・コンテンツがこれだけ溢れているので、そもそも意味のあるものしか読まれない時代だと思っています。
たとえば、現在強化しているドクターズプライムでの発信において、ドクターズプライムを転職先として検討してくださっている方にとっては、雰囲気を伝えるようなカジュアルな記事にも価値はあるとは思うのですが、「(転職先候補としての)ドクターズプライムの日常や雰囲気を詳しく知りたい」と考えてくれている方がまだまだ多いとは思えません。
なので、読む価値があるものを継続的に発信することでまずは信頼を獲得していきたいと考えています。
読む価値という意味では、人は瞬時に判断する傾向もあるため、SNSに投稿する際のサムネイル画像に非常にこだわりを持っています。
出し惜しみせず、パッと1枚絵で届けたいことを全て伝え、結論を理解できるような画像を意識して作っており、1pxあたりの意味濃度を高めることに重きをおいています。収まりが悪いことが嫌いというのもあるのですが、人の目に触れるコンテンツは100%の濃度になるように気をつけています。
例:ブログ記事の告知ツイート
また、構造化・整理については、就活時や若手の頃にやっていたフェルミ推定が役に立っているかなと思います。
フェルミ推定はテーマや事象を構造化して捉えて、掛け算したり足し算したりを通じて予測していくアプローチです。そこから、整理して定量的に捉えるというフレームや構造化しないと気持ちが悪いといった感覚に繋がっている気がします。
ー 言語化能力やテキストでの伝達力を鍛えるのに、おすすめの方法はありますか?
初学者や若手の頃の言語化能力の鍛え方としては、「とにかく書くこと」「レビューしてもらうこと」が、手っ取り早いと考えています。
たとえば、外部に向けた社内発信は各社注力していきたいことだと思うので、そこに手を挙げて取り組むこと等は、非常に効果的かなと思います。
会社の記事として外に出ていくので、必ずフィードバックが貰えると思います。
そこで、他部署の方や記事編集をしている方に「ここが伝わりにくい」「この表現は微妙そう」といったように揉まれることでスキル向上に繋がるのではないでしょうか。

Editor's Comment:編集後記

10 Questions to Product Managersの#2は、ドクターズプライムの髙橋京輔さんに話を伺いました。
本企画は、プロダクトマネージャーの方に共通の10問に対する回答をいただいているのですが、回答してくださる方によって、考え方や言葉選びの差や角度といった違いを早速感じています。醍醐味として面白いところでもありますし、(オープンな問というのもありますが)同時に複雑性の高い議題でもあるのかなと思います。
特に、Q3:Definition(定義), Q7:Requirement(求められるもの)あたりは、バックグラウンドやご回答いただいた方の職務・現在置かれている状況によっても、かなり変わってきそうな気がします。
答えを探す際に、ご自身に近い方や近い状況から考えてみると有意義かもしれませんね。多くの方に聞いていくことで、より色々な回答を蓄積していければと思います。
今回の内容では、個人的には
  • Business・Technology・Designの3領域で、まず満たすべきはBusiness (Q3)
  • 狭いコミュニティ内の基準でなく、普通・マジョリティの感覚を大事にしたい (Q8)
の2箇所を興味深く感じました。
合わせて、昔から尊敬している「一貫性の高さ」と「思考やプロセスを構造化および言語化して伝える能力」の凄さにも触れ、刺激的なインタビューでした。
髙橋さんが取締役を務めるドクターズプライム社では、「救急車のたらい回しをなくす」メンバーを、デザイナー、Webフロントエンド、コーポレートの3職種を中心に、全職種で募集しています。
採用情報はこちら、および下記のCultureDeckをご参照ください。ご興味の方は、サイトからの応募 or Twitterから連絡してみてください!

お知らせ

毎週1本(火曜17:00想定)、プロダクトマネージャー・プロダクト開発に対するテーマを発信予定です。
メールアドレスで登録していただくと、記事公開時に同デザインでメールが届きます。見逃さずにいち早く気づけるとともに、メールでも記事を楽しんでいただけます。


感想やコメントなども、ぜひSNSにシェアしていただけたら嬉しいです!

匿名で質問やリクエストを送る

※登録・ログインなしで利用できます

メールアドレスだけでかんたん登録

  • 新着記事を受け取り見逃さない
  • 記事内容をそのままメールで読める
  • メール登録すると会員向け記事の閲覧も可能
あなたも Medy でニュースレターを投稿してみませんか?あなたも Medy でニュースレターを投稿してみませんか?