(3/4) 多様性と不確実性、情報過多な時代のコンテンツ | Medy制作の背景

 (3/4) 多様性と不確実性、情報過多な時代のコンテンツ | Medy制作の背景

ー アテンションエコノミーの終焉と消費者の意思決定基準の変化、インターネットの発達と多様性尊重による不確実性の上昇。

2021/10/4

Spectraの浅香( @__asachi__ )です。
9/29にリリースした、ニュースレターつき会員制メディア作成サービス「Medy」(メディ) の制作に至った背景について、メディア・情報・広告の観点から、過去現在未来の流れで書いています。
#1でメディア・広告の推移から「アテンションエコノミー」、#2で供給と流通のチャンスによる「クリエーターエコノミー」について触れてきました。
#3である今回は、主に#1からの派生で「多様性と不確実性、情報過多な時代のコンテンツ」という内容について書いていきます。

#4は10/6に公開予定です。記事公開を知りたい方、楽に読みたい方は良ければ会員登録をお願いします!(記事と同内容のメールが届きます)

Diversity, Uncertainty, and Oversupply of Information

アテンションエコノミーの肥大化は終わらない連鎖なのか

#1ではアテンションエコノミーとその問題点について触れました。
アテンションエコノミーとは消費者のアテンション(= 関心、注意、注目)が経済的価値を持ち、(消費者の意思決定のベースとなる)アテンション自体が資源や交換財(≒通貨,貨幣)としての価値を持つという概念です。
アテンションエコノミーが加速している現代におけるその弊害は#1でも述べましたが、ではこの流れは終わらないのでしょうか。
この状況が変わるとしたら、何がきっかけとなって変わるのでしょうか。
その引き金は、消費者の行動基準の変化にあると考えています。
結局のところ、アテンションエコノミーの成長によって生じる問題の根幹は、消費者の可処分時間(= 自由に使える時間,今では一種あらゆる隙間時間)をアテンション至上主義で獲得しようとする構造にあります。
#1でも軽く言及しましたが「注意とは人間の思考活動の弱み」と称され、この構造はある種、人間の本能を利用した仕組みであるので、この構造は自発的には崩壊せず、なりゆきに任せている以上はアテンションエコノミーは加速の一途を辿ると思われます。
こういった本能的な構造が変革するには、それを否定する消費者の心理が生まれる必要があると考えています。
より具体的に言うと、消費者がアテンションに無条件に反応するのではなく、主体的に情報を選択したい、あるいは、しなければならないと思うことが必要であるということです。
そこで今回は、現代社会を取り巻く以下の二つの環境に注目して、上で述べた消費者心理がいかに生まれるのかについて、考察していきたいと思います。
  • 増え続ける情報の供給
  • 多様性の尊重が生んだ不確実性の時代
また、アテンションエコノミーについての解説やその問題点などは#1に詳しくまとめてありますので、そちらを参照ください。


増えすぎてしまった情報の供給量

現代が情報過多の時代情報過多社会などと呼ばれたりするのは耳にしたことがあると思います。
そして、少なくとも経験的には、このことは多くの人が実感していると思います。
定量的には、まず「情報」という言葉の指すところを正確に定義しないといけませんが、ラフに捉えていくつかのデータや調査結果をみてみると、
例えば、博報堂のメディア環境研究所の調査「メディア定点調査2021」によると、「1日あたりのメディア総接触時間」は2021年では450.9分(約7時間半)にも上り、これは2006年の335.2分(約5時間半)に比べて約2時間も増加していることがわかります。
また、NHK放送文化研究所の2018年の世論調査によると、「今の社会は情報が多すぎる」と感じている人は全ての男女年層で8割を超え、全体としては84%もの人が実感しているようです。
このように現代が情報過多の社会であることは、以上のような調査結果からも見てとることができます。
また、近年ではフェイクニュースなどの真偽不明な情報の蔓延が問題となったり、アルゴリズムによって自分の好みに合わせた情報のみに囲まれ、その他の情報との接触機会が(自身の意図とは関係なく)断たれてしまうフィルターバブルなどの現象も問題となったりしています。(参考:フェイクニュース, フィルターバブル)
つまりは、消費者として情報の洪水の中で、自分に必要そうな情報や重要度が高そうな情報を常に取捨選択しなければならないのです。


不確実性の時代のなかで

ここで、現代社会を取り巻くもう一つの環境、不確実性の時代の到来に焦点を当ててみます。
こちらも情報過多と同様、様々なところで耳にするようになった言葉だと思います。ビジネスの世界ではVUCA*の時代などとも言われることもあります。
* Volatility,Uncertainty,ComplexityAmbiguityの頭文字
では、「不確実性」とは何なのでしょうか?
この事柄に向き合うにあたって考えたいことは、"そもそも将来が確実だったことなどあるのか" といった点です。
「不確実」とは将来の見通しが立ちにくいことを意味し、これは社会の変動のスパンが短く、またその波が大きく激しいことを受けての言葉です。このことは、「不確実性の時代」や「VUCA」などのキーワードで検索すると多くのサイトで説明されていることでもあります。
そして、なぜ現代がそのような変動の激しい社会になったかというと、1つの大きな要因としてはインターネットが普及し、情報の伝達速度が飛躍的に向上したからだと考えられます。
インターネットの普及以前は情報の伝達速度は遅く、たとえば地球の反対側でのトレンドが伝わってくるのに時間を要しており全体の動きは遅く緩慢だったのが、現代ではほぼ遅延無く広範に伝わるようになったことで、社会の瞬発力が増したということです。
また、情報の平等化によって、研究開発が促進・活性化され、技術革新も加速しています。
さて、上述したようなことは既に言われていることでもありますが、これらの事情に加えて、もう1つ不確実性を高めている現代特有の事情があるのではないかと考えています。
それは、多様性の尊重です。
2002年-2011年にかけて実施された「ゆとり教育」をはじめ、2000年代以降は社会的に個性や個人の価値観が尊重されるようになりました。最近ではLGBTQの尊重なども公的機関を巻き込んだ形で議論されるようになり、多様性の尊重は全世界的なテーマとなっています。昨今では、Diversity&Inlustionといった言葉も耳にするのではないでしょうか。
では、多様性の尊重と不確実性の社会がどのように繋がるのかを考えるために、多様性や個性の尊重によって社会的変化がどのようにあったのかを考えてみます。
まず、個性が尊重されるようになったことで、以前に比べてコミュニティのサイズが小さくなったのではないかと思います。個性というのは当然、千差万別なので、各人の個性を尊重すればするほどお互いの違いというのは明確になり、アイデンティティの語彙は豊富になるので、同属意識・帰属意識を持つ集団の規模が小さくなります。合わせて、各々・各コミュニティでも複数のアイデンティティを保有するため、コミュニティは互いに複雑に重なりあうようになります。
これらの個性によって形成されたコミュニティは似たような価値観を持った集団なので、時には異なる価値観を持った他のコミュニティと反発し、時にはお互いに協調し、そのサイズや影響力を絶えず変化させます。
そういった状況においては、多くの人に影響を与えるような長く続く大きな「トレンド」は発生しにくく、短く小さな「バズ」が様々なコミュニティで多発するようになります。
そして、このように(多くの人と共有する)長く続くトレンドの消失と瞬間的なバズの多発が将来の見通しを不明瞭にし、不確実性を高めていると考えています。
また、これらの事情は、意思決定の際の安全な拠り所をなくし、人々に自らで判断を下さなければならないことを強要します。
結局のところ、やはり現代では判断に必要な情報の取捨選択を迫られているのです。



アテンション至上主義との訣別

ここまで、情報過多社会と不確実性の時代という現代社会を取り巻く二つの環境をもとに、これからは情報を取捨選択しなければならない必要性と、自らの判断で意思決定をしなければならない必要性が、増していくのではないかということを書きました。
そして、ここに来て今回のテーマである、「自らの意思決定に関わるような重要な情報の取捨選択をアテンションに任せてよいのか」という問題に至るのです。
その答えは当然NOで、それを良しとする人はいないと思います。
つまり、好むと好まざるとに関わらず、人々は情報の選択をアテンションではなく、自分が信頼するに足るソースによって行わなければならない時代に今まさになっているということです。
今回は消費者や社会的な視点で書きましたが、#2でも書いたとおり、クリエーター・発信者にとっても「良質な情報・コンテンツを作っているのに、届かない・選ばれない」といった問題も同時に孕む側面も持ち合わせます。
情報を主体的に選択する時代の幕開けとともに、Medyは発信者に対しても受け手である消費者に対しても、サポートをしていきたいと思っています。

おわりに

主に#1のアテンションエコノミーから派生して、受け手である消費者を取り巻く環境と、その中でどういった意思決定・行動体系になっていくと考えられるかという点について、今回は書いてみました。
最終回となる最後は、現代・近未来の社会における「情報の価値とMedyの役割」という記事で締めたいと思います。
ここまでご覧いただき、ありがとうございます。ぜひ最後まで、お楽しみください。

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