「他人が知らない情報が価値」- 意思決定・判断のための良質な情報をインプットするには | 村上雄也 (East Ventures)

「他人が知らない情報が価値」- 意思決定・判断のための良質な情報をインプットするには | 村上雄也 (East Ventures)

[#5]テックトレンドや海外事例に精通し、海外スタートアップDB・ニュースレターを運営するEastVentures村上さんに、情報収集のノウハウについて伺いました。

2021/12/7

The ProductはMedyを開発するSpectra浅香が、週に1本プロダクト開発・プロダクトマネージャーについてインタビュー型でノウハウや思考をお届けするニュースレターです。
DEEP DIVEは、プロダクト開発に関わる方に「デジタル化」「ユーザーインタビュー・検証」「事業ドメイン特有のハードル」等の特定テーマを軸に、自社・ご自身の領域や取り組みについて掘り下げる企画で、今回は「意思決定・判断のために、どう良質な情報をインプットしていくべきなのか」がテーマとなります。
厳選した企業の事業や調達状況を掲載する海外スタートアップDBや、テックトレンドのニュースレターを運営しており、日頃から海外情報を中心に情報収集をしている村上さんに伺いました。
過去記事はこちら。


Profile


村上雄也(@yu8muraka3)
1996年生まれ。2019年East Venturesに入社。同世代の若手起業家を中心にソーシングし担当。ファンドの一部バックオフィス業務も担いながら、ライフワークとして海外スタートアップのリサーチを行い、数百人が登録する「海外スタートアップDB」を提供。



ベンチャーキャピタルでの仕事と情報収集

ー まずは現在のお仕事と情報収集の関連性について教えてください。
East Venturesのアソシエイトとして、下記の3業務を主に担当しています。
  1. 新規投資先候補の発掘(ソーシング)
  2. 既存投資先の支援
  3. East Venturesのバックオフィス業務
1,2の業務との関連性もあるのですが、海外スタートアップDBやニュースレターなど、個人でも発信活動を積極的にしています。
個人で趣味・ライフワークとして行っていた情報収集を、外部にも公開しようという気持ちで始めた活動です。
▼海外スタートアップDB
▼ニュースレター

VCを目指す際に始めた情報収集

ー 海外情報を中心に網羅的・ディープに情報を追っている印象ですが、いつ頃から情報収集をされているのですか?
スタートアップ情報やTechトレンドの情報収集は、昔からずっとやっていたわけではなくて。
2019年にEast Venturesに入ったのですが、その1-2ヶ月前くらいからですね。
学生時代にはCyberAgent藤田氏や堀江貴文氏の書籍等を読んでいて、昔から漠然と起業に興味があったのですが、裏方が好き・得意だったこともあり、フィットしないかもしれないと感じていました。
その中で、読書や調査をしていると"VC"(= スタートアップへ投資するベンチャーキャピタル)という存在を知り、惹かれるように。
一方で「VCになりたい」と思ったものの右も左も分からなかったので、とあるVCの代表の方に「VCになるにはどうしたら良いか?」と相談させてもらいました。
30分程度、お話しさせてもらう中で「VCになるには、企業・サービス・マーケットなどに、もっと詳しくならないといけない」と強く感じ、話題の中で出てきた "Y Combinator", "Andreessen Horowitz" という単語から帰ってすぐに調査し始めたのがルーツだと思います。
この頃は、ブログ記事やエッセイなどを読み、学んだことをブログにアウトプットするというサイクルを毎日繰り返していました。

大学時代のまとめサイト運営

ー 初期から学習スピードや情熱の投下量がすごいように感じるのですが、義務感のような気持ちからだったのですか? 昔から、のめり込んだり、やり込んだりするタイプだったのでしょうか?
オタクっぽい性質は元々あったかもしれないですね。笑
大学時代に、アイドルが好きで乃木坂46を追っていました。
その後に、欅坂46というグループが新設され、そちらもウォッチしていたのですが、当時は欅坂の"まとめサイト"がなかったんですよね。
(※編注:まとめサイトでは、5ちゃんねる等の掲示板型サービスのスレッド等を元に、最新情報やファンの反応・コミュニケーションが更新される。)
乃木坂の情報を追うのにまとめサイトを活用していたこともあり、「ないなら作ろう」と考え自分で作ることにしました。
作ってからは、ずっと情報収集に明け暮れていて。速報性が大事だったので、新情報が出てきたら大学の授業中でも通学中でも更新していましたね。
常にPCを持ち歩いて、1日に10~15記事くらい更新していました。

「新しいことを知る楽しみ」がモチベーション

ー 仕事としての情報収集になった際に、気持ちやモチベーションの変化はありましたか?
East Venturesで仕事をはじめた当時は、業務として投資や投資先支援をするにあたって、マーケット・事業・起業家に対する判断軸や比較軸を持っている必要があると思っていたので、特に大量に情報を見ていました。
CrunchBase(企業情報データベース)を毎日見て、「こんな会社があるのか」「こういうサービス良いな」と新しいことを知るのは楽しいという気持ちでしたね。
最初に大量に情報をインプットしたことで、情報収集の仕方・アウトプットへの展開のベースができたことは良かったと思っています。
自分の場合は好奇心からでしたが、モチベーションは必要だと思うので、本当に自分の興味があるジャンル、もしくは業務等で絶対に必要な情報などが習慣としての情報収集に適しているのではないでしょうか。
また、興味対象は移り変わっていくものだと考えています。
自分の場合は、トレンド・最先端の情報から、普遍的なものや原理原則に近いものなどを好むようになってきていると感じます。
たとえば、Angel List創設者であるNaval Ravikant、Berkshire HathawayのWarren Buffetなど、事業・投資の具体的な話だけでなく、人間・心理・哲学をベースにしたような思想に興味があり、情報収集の対象となっています。
このように、その時の興味に応じて手に入れたい情報をインプットしていくようにしています。

能動的な情報収集をなるべく減らす

ー 日々の情報収集をどのようにしているのか教えてください。
下記の2つが主な情報収集源です。
  • 各媒体のRSSフィード
  • ニュースレター
両方とも手元に届く形式の方法で、基本的には自ら情報を取りに行くという行為をしなくても良いようにしています。
記事を書いたりリサーチ業務をしたりする際など、深掘る必要があるときは、付随して能動的な検索や文献調査を組み合わせます。

RSSでの情報収集

Inoreader というツールを利用して、RSS経由の情報を管理しています。


TechCrunch等のテック系メディアや個人ブログまで、気になる媒体でRSSがあれば、ここに基本的に登録しています。
週に数百ほど溜まっていき、読むもの・読まないものをまず振り分け、海外スタートアップDBに掲載したい情報やニュースレターに取り上げたい情報など、知っておきたいものは深く読む形です。
タイトル時点で読むか読まないかを決めていて、
  • ①自分の興味分野であるか(例:Web3.0 など)
  • ②題名・リード文から有用性を感じるか(重複した情報でないか、中身が有用そうか)
を判断しています。
スタートアップDBに掲載したり、ニュースレターで触れたりする際は、記事を読んだ上で調査するなど、更に深掘っていきます。

ニュースレターでの情報収集

Substack等のサービスで、良質な情報を発信している著者のニュースレターに登録しています。
定期的に手元に届くため、楽に良質な情報へアクセスできるので重宝しています。


たとえば、週次でテクノロジーニュースやコラムが届くDigital Nativeや、週に2回ビジネスやテックトレンドの解説やコラムが届くNot Boringなどに登録していますね。



厳選した上で、毎回の配信を見逃さずに見たいと思って登録している情報なので、手元に届くものはすべて目を通しています。
また、記事がリファレンスしている情報や今週のピックアップ情報のように、ニュースレター内に他の記事が入っていることも多いのですが、そちらにも同様に目を通します。
良質な発信者が掲載している情報も有用なことが多いと考えているため、それらを合わせて週に10~20記事程度をニュースレター経由で読んでいると思います。

他人が知らない情報を知っていることに価値

ー 情報収集は どのように必要・不要といった取捨選択をしているのでしょうか?
(もちろん業務としてやるべきことであればインプットしますが) すべての情報は見切れないので、捨てる感覚は大事だと思っています。
前述の通り、かなりソースは絞っていて、自分の中で気になっていたり興味があったりする情報に絞るようにしています。
課題意識やイシューのような感覚でしょうか。
全部を知る必要はないと考えているので、いわゆる守備範囲のようなものを決め、絞って深く知ることを優先しています。
投資や事業において、みんなが知らないことを知っていることに価値があり、行動や結果に差が生まれる要因だと考えています。
なので、実際にトレンドが起こっている現地からの情報や、投資家・起業家など第一線にいる方からの情報などをインプットすることを重視していますね。

SNSでの情報収集はしない

ー Twitter等を中心としたSNSも情報が多く出てくると思いますが、SNSとの付き合い方や情報収集源としてはどう考えているのでしょうか?
SNSはあまり見ないようにしていますね。
自分は情報処理能力が高い方ではないと思っています。大量に情報が流れてくるSNSを日々見ていると混乱してしまうんですよね。
同時に、SNSでは情報が得られるときも得られないときもあると考えています。
また、Twitterは「浅く広く」型だと思っていて、速報やニュースを知ることには適しているものの、深い情報を知るのは難しい印象です。
なので、Twitterでは海外のVC・起業家・ジャーナリストのような良質な発信源を必要最低限だけ入れたリストを作り、読んでいます。
"良質な情報"を知っていることに意味があると考えているので、そういった情報にリーチすることに重きを置いています。
SNSに流れるような情報は、周囲の人たちがほとんど知っているような情報なので、会話をしている中でも知ることができてしまうということもありますね。

一次情報や濃度が濃い情報にアクセスする

ー とはいえ、一度見つけるまでは良質な情報や発信者にアクセスをすることは難しいことだと思います。工夫していること、切り分けていることはありますか?
ニュースレターでいうと、Substackのニュースレターをまとめてくれているサービスが当時あり、そこで探していました。
(※編注:Newsletter Stackというサービス。既にクローズ済。現在ではSubstack内のReader・Discover機能も充実しており、一定代用が可能。)
Technology, News, Journalism … といったようにカテゴリを分けて掲載してくれていて、そこから良さそうなものをいくつか見つけました。
また、先程も触れましたが、やはり良質な発信者がリファレンスしているものも良質な情報である傾向があると思っているので、最初はソースが少なくても徐々に広がっていきました。
その他には、TwitterにおいてTechCrunchやメディアのライターなど、良質な発信をしていると思っている方のいいね欄を見ることを不定期でやっています。
そこから、発見したニュースレターも継続購読していますね。

ー 海外のソースを参考にされていることが多いように感じますが、やはり良質な情報や先端事例を知るためには海外ソースを追う必要があるのでしょうか?
あくまで、良いリソースがあるかどうかが大事だと思います。
翻訳やコンテクストのことを考えると、日本語で知れるに越したことはないです。
ですが、やはり現地で起こっていることは、現地にいたり文化圏が近かったりする発信者からの情報が多いですし、発信者の数が違うという事情もあるかなと。
そのように、品質の高い情報が海外の発信者からであることが多いので、USを中心とした海外のソースを見る機会が増えていると状況かなと思います。

ー 課金しているソースもあるのでしょうか?
いくつか、課金している情報源もありますね。
濃密な情報・一次情報を得ることが重要だと思っていて、有料で運営されているレベルの情報はひとつ指標になると考えています。
海外のソースでは、
国内では
など、だいたい月に1万円程度の金額を情報収集にかけています。
過去にはUS版BusinessInsider, Fortune や、東洋経済オンライン, 日経ビジネス などにも支払っていましたね。
無料でも高クオリティの情報を得ることができる現代においては、自分の興味とフィットするかを確かめた上で、有料購読していくのが良いかと思います。

情報過多の時代に発信者側が工夫すべき点

ー ここまで情報収集について聞いてきましたが、村上さんはニュースレターや海外スタートアップDBの運営など、発信者の側面も持っているかと思います。情報収集で絞って深く知ることを工夫されていましたが、発信者側の立場からだとどういった点が重要になってくるのでしょうか?
発信を続けることが一番大事だと思っています。
ただ、義務感にならずに継続できると良いと思います。
そのために、
  • 続けられる仕組みやフォーマットを作ること
  • 本当に興味があることを書くこと
といったような側面が重要だと考えています。
スタンスや興味の対象にも依ることはあると思いますが、バズやいいねといった数の誘惑に惑わされなくて良いのかなと。
最大多数に届けることを目指すより、すごく知りたいと思ってくださっている人にきちんと届けることを意識しています。
100人からのいいねよりも、1人から100個の発信へのいいねの方が嬉しいですね。
(本文終)



編集後記

#5 はEast Venturesの村上さんにお話を伺いました。
Medyでも
「海外スタートアップの情報」と「創業者・投資家からの学び」といった”トレンド”と”普遍的な知恵”
をテーマに、ニュースレターを運営していらっしゃいます。

圧倒的な知識量をインプットされており「こういうサービスってありますか」「海外の類似事例とか」… と相談させていただくと、すぐに教えていただけて尊敬しています。
ニュースレターで発信されるトレンド情報や起業家の考えについても、テーマを元に深堀っているので毎回読み応えを感じます。
そんな村上さんに、「どうやって情報収集しているのか」「意識していること・ノウハウ」「必要な情報とは」といった事をお聞きさせていただきました。
アメリカ・中国の先端事例をコピーするようなタイムマシン経営が成功するというわけではありませんが、プロダクト開発や意思決定において、比較軸を作ったり優位性を理解したりするために、海外事情も含めた情報収集は非常に重要なことです。
プロダクトの種を探している際や、国境を超えて起こっているトレンドを知っておきたいといった際は、村上さんの考え方や実践しているメソッドは参考になるのではないでしょうか。
個人的には、
  • SNSの役割を明確にする (皆が知っている情報も多い)
  • 能動的な情報収集は最低限に (受け取った情報を分類すれば良い状態に)
といったことは、時間帯効果を最大化したり濃密な情報を得たりするために、コントロールできる事象なので、意識することで変化を感じられそうと思いました。
自ら探すコストも膨大でSNSには誘惑も多いので、リファレンスにできるような良質な情報源を押さえておくことは、さらに情報が増えていく中で重要となってきそうですね。(そういう意味で、ニュースレターのような、ほしいものは手元に受け取るという形が見直されているのだと思っています。)
「他の人が知らない情報に価値がある」は、情報収集の目的である判断基準・比較軸の作成や戦略策定としてプロダクトの勝ち筋にも繋がってくるので、一次情報へのアクセスなど日頃のインプットから頭に入れておきたいと思いました。

最後に

村上さんが運営するニュースレター・海外スタートアップDBは、こちらから登録いただけます。



お知らせ

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